B:流浪の猿人 ブラクキ
イディルシャイアの住人が、猿人に襲われるという事件が頻発していてねぇ。でも、猿人「サスカッチ」が棲息するのは、シェルダレー諸島なんかの暖かい密林と相場が決まってる。
古い記録を調べてみて、ようやく事の真相がわかったよ。
なんでも、かつてシャーレアン人の博物学者が、生態調査の一環として、温室で飼育していたようなのさ。
大撤収の際に解き放ったんだろうが、迷惑な話さね。
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
イディルシャイア。学術都市国家シャーレアンが入植地として都市を築いていたがガレマール帝国の侵攻を察知して一夜にしてすべてを放棄して本国に帰ったという「大撤収」の際に取り残された者たちが興し、移民が住み着くことで発展を遂げてきた街だ。そのイディルシャイアの街の市場であたしと相方は出発前の最後の準備をしていた。今度のターゲットはブラクキと呼ばれる猿人だ。
イディルシャイアの街の周辺にはシャーレアンの入植地時代の遺構が街の体裁そのままに残る。
「一夜にしていなくなった」のだからその慌てぶりは推して知るべしだが、ほとんど体一つと言った状況で逃げ出したようだ。シャーレアン人はこういうと知識人らしく「争いを避けただけだ」というだろうが、日常生活から人間だけがパッと消えたような街の有様を見れば誰もが「とにかく慌てて逃げ出したのね」という感想を持つだろう、とまぁこれは余談だが。とにかく、その廃墟の街には様々な物がそのまま残されている。そのためイディルシャイアには廃墟を探索して金目の物を持ち帰って現金化するということを生業にしている人たちがいる。その人たちが立て続けに巨大な猿人に襲われているという。そこでモブハンターの登場と相成った。
野生…と呼べるのかどうかは疑問があるが野に暮らす巨大な猿人サスカッチ、つまり大きなゴリラが相手なだけに廃墟の街で何日野宿することになるか想像もできない。あたしと相方は念入りに、余分なくらいの物資を仕入れて、余るくらいの準備をしてのぞむことにした。
市場にはちゃんと店舗を構えている店もあったが多くは露天商のように地面に商品を並べていた。そのうちの一つの商店でおしゃべりな女店主に捕まり四苦八苦していた。話の流れでブラクキを倒すのだという話をすると、以前襲われたことがあるという女店主は無駄に食いついてきてしまった。
「あたいもそうだけどさ、ここの住人が良く襲われててさ、倒してくれると助かるよ」
そういうと女店主は大口を開けてガハガハと笑った。
「どの辺によく出るの?」
あたしが聞くと女店主は少し考えたそぶりを見せて言った。
「そうさね、サリャク河の向こう岸が多いかねぇ。でもさぁ、猿人っていえば暖かい密林にいるもんだ。なんでこんな寒いドラヴァニアなんかにいるのか、あたしゃ不思議でさぁ」
あたしはうっかり女店主のおしゃべり心に火をつけてしまったようだ。女店主は機関銃のように話し始めた。
「調べたのよ、このあたいが。そしたらさぁ、どうもシャーレアン人の博物学者が生態を調べるってんで連れてきたらしいのよぉ。で、温室で飼育して観察してたらしいんだけどさぁ、どうも大撤収の時に置いて行ったらしいのよ、わざわざご丁寧に温室から出して。おかげでさ、イディルシャイアの住人は襲われるし、全く迷惑な話さねぇ」
女店主はしかめっ面で両手の掌を空に向けて首をわざとらしくブンブン振った。
「また自分勝手なこと言ってる」
動物好きな相方が俯きながら低い声でぼそっと言った。あたしも同感だった。
すこし癇に障ったあたしは相方に背中を押されたように感じてここぞとばかりに言い返してやることにした。
「ほんと迷惑よね。」
女店主は話の趣旨も分からないうちにウンウン頷いている。あたしは辺りに聞こえるように大きめの声で息継ぎなしで最後まで言ってやった。
「シャーレアンの博物学者だか、堅物畜生だか知らないけど、そいつの気まぐれで南方の暖かいところから肌寒い片田舎の僻地に無理矢理連れて来られて、腰抜け人間の夜逃げで環境に合わなくて住み慣れない、食べ物もない廃墟の街に放り出されて、挙句自分を危機に陥れたのと同じ見た目の人間に身の危険を感じて自己防衛したら危険生物とかリスキーモブとか言われて命を狙われる。こんな傍迷惑な話しある?あたしなら憤死するわ」
おしゃべりな女店主は目を丸くしてボカンと口を開けて黙り込んでしまった。
あたしの隣では相方が堪え切れず両手で口を隠しながら肩を震わせて笑っていた。